サンティアゴ巡礼路
Camino de Santiago
サンティアゴ巡礼路という言葉を聞いたことがありますか?
キリスト教ゆかりの地やお参りすべき聖人が祀られた教会を巡りながら、聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラを目指す巡礼路です。キリスト教三大聖地のひとつであるガリシアの都には、中世よりたくさんの巡礼者がヨーロッパ各地から訪ねました。巡礼の習慣は現在まで受け継がれています。世界各国から集まる人びとが、様々な目的を持って、昔と変わらぬ道を一歩ずつ進んでいきます。
歩くスピードがゆっくりな分、目にする景色はしっかりと刻まれます。好きなペースで、好きな場所から、巡礼路の第一歩を踏み出しましょう。
- サンティアゴ巡礼路とは?
- 楽しみ方1〈 歩く 〉
- 楽しみ方2〈 訪ねる 〉
- 自由に選ぶ旅
サンティアゴ巡礼路とは?
歴史
サンティアゴ巡礼路はスペイン語で Camino de Santiago (カミーノ・デ・サンティアゴ) といいます。サンティアゴというのは、イエス・キリストの十二使徒の一人である「聖ヤコブ (大ヤコブ) 」のスペイン語名です。サンティアゴのお墓が位置するガリシア州サンティアゴ・デ・コンポステーラ市は、エルサレムやローマと並ぶキリスト教三大聖地の一つです。この聖地を訪ねるために、長い歴史の中で整備された道がサンティアゴ巡礼路です。ヨーロッパ各国から伸びる「フランス人の道」、「北の道」、「ポルトガルの道」、「イギリスの道」をまとめてサンティアゴ巡礼路と呼びます。
聖ヤコブとはどのような人物だったのでしょうか。イエス・キリストの十二使徒の中でも、イエス・キリストに起きた重要な出来事に立ち会った三人の特別な使徒の内の一人です。彼は、イエス・キリストなき後、イベリア半島でキリスト教の布教活動を行いました。「聖母ピラールの出現」は聖ヤコブが布教活動をしていた頃の有名なエピソードとして知られています。西暦 40 年 1 月 2 日、サラゴサのエブロ川のほとりでお祈りをしている聖ヤコブの前に聖母マリアが現れ、教会を建てるための柱 (スペイン語で「ピラール」) を授けました。この柱を使って建てられた教会が、スペイン最大のバロック建築にして、スペイン語圏における聖母マリア信仰の中心地ともいえる、サラゴサの「聖母ピラール大聖堂」です。
イベリア半島での布教活動後、エルサレムに戻った聖ヤコブは、斬首の刑に課され、殉教してしまいます。敵の手から聖ヤコブの遺体を免れた彼の弟子たちは、遺体とともに石の船に乗り込み地中海へと旅立ちました。そして、7 日後にたどり着いた地こそが、イベリア半島の西の果てにあるガリシアだったのです。
その後、聖ヤコブの棺の存在はしばらくの間、忘れ去られました。「再発見」されるのは、長い時を経た 9 世紀のことでした。時は国土回復運動の真っただ中。8 世紀にイベリア半島を駆逐の勢いで支配下に置いたイスラム教徒に対して、キリスト教徒がその土地を「奪い返す」戦いが北スペインを中心に繰り広げられていました。そんな折、ある羊飼いが流れ星に導かれて聖ヤコブのお墓を発見したという噂が、当時の王様であるアルフォンソ 2 世の耳に入ります。すぐさま、サンティアゴ・デ・コンポステーラへ向かった王様は、墓が発見された場所に聖ヤコブを祀る小さな教会を建てました。この教会こそが、その後の度重なる増改築を経て変貌を遂げた、現在のサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂です。
重要な聖人の墓の発見が、キリスト教徒が一致団結して戦わなければいけない時代性に合ったため、聖ヤコブは国土回復運動の宗教的、政治的、文化的アイコンとしてキリスト教社会へ浸透しました。聖地ローマへのアクセスが困難であったことも重なり、サンティアゴ巡礼者の数は 11~12 世紀にかけてピークに達します。巡礼路沿いの宿場町は商い、文化、交易の拠点として大いに賑わい、聖人の聖遺物を保管する大聖堂や教会には信者からの寄付が後を絶ちませんでした。スペイン三大大聖堂と称されるレオン大聖堂やブルゴス大聖堂は、このような歴史的な背景の中でつくられた代表的な建築物です。
様々な巡礼路
これらの町にはスペインのみならず、様々な国の人びとが訪れました。最も多かったのはフランス人であったと言われています。こうして、フランスから来た人びとが踏み固めた道が「フランス人の道」です。パリ、ヴェズレー、ル・ピュイ、アルルから出発する 4 本の道は、ピレネー山脈の峠を超え、現在のナバラ州プエンテ・ラ・レイナで合流し、聖地へと伸びています。スペインでは、パンプローナやブルゴス、レオン、アストルガなど北スペインを代表する街を通ります。山岳地帯のピレネー山脈から、カスティーリャ・イ・レオンの広大な高原台地、ガリシアの山地を超えて丘陵地帯など、多様な景観の変化を体感することができる道です。現在でも最も人気のある道で、1993 年にユネスコ世界遺産に登録されました。
「フランス人」の道に続き、2015 年に世界遺産に登録された道が「北の道」です。バスク州の国境の町イルンをスタートし、サン・セバスチャンやゲタリア、ビルバオなどバスクを代表する町を通りながら、北スペインの大西洋沿岸部を沿うように西へと伸びる道です。バスク、カンタブリア、アストゥリアス、ガリシアからなる緑豊かな「グリーンスペイン」地域を存分に楽しむことができます。大西洋の海原だけではなく、カンタブリア山脈の美しい山並みを眺めながらの贅沢な巡礼体験ができます。
その他にも、ポルトガルはリスボンを北上しながら進む「ポルトガルの道」、イギリスからア・コルーニャまで船で、その後は徒歩で巡礼を続ける「イギリス人の道」など、ヨーロッパ各地から伸びる巡礼路は、それぞれの風情を持っています。
巡礼路の今
中世に起源を持つサンティアゴ巡礼は今なお人びとを繋いでいます。2019 年の巡礼者の数は 35 万人へ到達する見込みで、2017 年に初めて 30 万人を突破したのち、3 年連続でその数を伸ばしています。
歩く理由は人それぞれです。信仰心から歩く人、スポーツ感覚で楽しむ人、何かをやり遂げたくて歩く人。共通するのは、世界各国の巡礼者と一緒に、ひたむきに歩く姿です。歩く距離やスタート地点も様々です。全行程を踏破する人もいれば、毎年少しずつ歩みを進め、数年で全行程を歩き切る人、巡礼証明書を目標にラストの 100 kmを歩く人、主要な大聖堂や教会を訪ねる人もいます。歩き方にルールはありません。
2018 年のデータ
サンティアゴ・デ・コンポステーラに本部を置く巡礼者事務所では、年別の巡礼者データをインターネット上で公表しています。この数字をみると、どのような人が巡礼を行っているのかが垣間見えます。
男女比|男性:50.35 %
女性:49.65 %
巡礼方法|徒歩:49.65 %
自転車:6.35 %
騎馬:0.10 %
帆船:0.04 %
車椅子:0.02 %
巡礼目的|宗教的な目的とその他の目的:47.87 %
宗教的な目的:42.78 %
宗教以外の目的:9.35 %
年齢|30~60 代:54.81 %
30 歳以下:26.83 %
60 歳以上:18.35 %
国別|スペイン:44.03 %
イタリア:8.25 %
ドイツ:7.73 %
日本:0.45 % (1477名)
巡礼路別|フランス人の道:56.88 %
ポルトガルの道:20.72 %
北の道:5.82 %
( 出典:巡礼事務所 https://oficinadelperegrino.com/ )
楽しみ方1〈 歩く 〉
北スペインを通る巡礼路は大きく分けて 2 種類あります。
内陸部を歩く「フランス人の道」と、大西洋沿岸部を歩く「北の道」です。
フランス人の道 Camino Francés
北スペインを 760 km に渡って伸び、31 区間から構成されるフランス人の道は、数ある巡礼路の中で最も多くの人が歩く道です。メリットは道標や道の整備が進んでおり、巡礼宿や食堂の数が多いことです。日本語の情報量も最も多い道でしょう。
中世から主要道として発展してきたため、有名な宿場町や歴史ある建造物の数は計り知れません。デメリットは夏を中心に巡礼者の数が非常に増えるため、混雑が予想されることです。
フランス
フランス人の道はその名の通り、フランスからやってくる巡礼者が歩いた道です。フランスのパリ、ヴェズレー、ル・ピュイ、アルルから出発する 4 本の道は、ピレネー山脈の峠を超え、現在のナバラ州プエンテ・ラ・レイナで合流し、サンティアゴ・デ・コンポステーラへと伸びています。
アラゴン州
フランスからスペインへは 2 つの入り方があります。ひとつはピレネー山脈中央部のソンポルト峠 (1632m) を通りアラゴン渓谷を下って、ハカからプエンテ・ラ・レイナへ行く方法です。アラゴン州を通るため、「アラゴンの道」とも呼ばれています。この区間では、中央ピレネーの迫力ある山並みや、フランスとスペインを結んでいた旧国際駅であるカンフランク駅の駅舎、サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂と並びスペインで最も古い大聖堂であるハカの大聖堂、アラゴン三大ロマネスク建築のひとつであるサン・フアン・デ・ラ・ペーニャ修道院 (迂回路) など、ピレネーの大自然とアラゴン王国ゆかりの地を訪ねることができます。
ナバラ州
スペインへのもう一つの入り口であるイバニェタ峠 (1060m) は、フランスの名宿場町サン・ジャン・ピエ・デ・ポーとナバラ州のロンセスバジェスへを結びます。フランス人の道の全行程踏破を目指す人は、これらのポイントから歩き始めることが多いです。なだらかな牧草地帯が美しいナバラの大自然に囲まれた巡礼路は、州都パンプローナまで下り、プエンテ・ラ・レイナへと続きます。途中には、サンタ・マリア・デ・エウナテ教会など珍しいロマネスク教会が建っています。
プエンテ・ラ・レイナは、アルガ川に架かる美しい石橋が目印の、中世の趣を残す宿場町です。目抜き通りにはレストランや巡礼宿、ロマネスク教会が建っています。命がけで川を渡っていた巡礼者にとって、重要な役割を担っていた石橋は今も巡礼者を対岸へと導いています。
ラ・リオハ州
ラ・リオハ州に入ると、ブドウ畑が巡礼者をお出迎えします。ワインの都ログローニョや宿場町として発展したサント・ドミンゴ・デ・ラ・カルサーダ、スペイン語発祥の地と呼ばれるサン・ミジャン・デ・コゴージャ (迂回路) などが見どころです。
カスティーリャ・イ・レオン州
カスティーリャ・イ・レオン州へ入ると、スペインを代表するメセタ (平原台地) が現れます。「スペインのパン籠」と呼ばれるカスティーリャ地方の広大な小麦畑に囲まれた巡礼路沿いには、スペイン三大大聖堂に数えられるブルゴス大聖堂やレオン大聖堂、ガウディが設計した司教館があるアストルガ、巡礼者が祈りを込めて石を放るフォンセバドンの鉄の十字架など、見どころが目白押しです。
ガリシア州
山がちな地形を登りオ・セブレイロ峠からガリシア州へ入ります。カストロと呼ばれる石壁と藁ぶき屋根の伝統家屋が残るセブレイロ村を通り、サリアに到着すれば、残るはラスト 100 kmです。徒歩巡礼路の場合は、最後の 100 kmを完歩すると巡礼証明書が発行されるため、サリアから歩き始める人も多くいます。牛がのんびりと草をはむ牧草地や緑が美しい丘陵地帯、栗の森や小川を通り、ポルトマリンやアルスアなどの宿場町を抜け、いよいよ聖地が近づいてきます。
「歓喜の丘」は大聖堂を遠目に見ることができるスポットです。丘の上には、中世の巡礼者のブロンズ像が二体建っており、苦しい旅路の末、やっとの思いでここまで辿り着いた喜びを表しています。残り 5 kmの下り道を歩けば、サンティアゴ・デ・コンポステーラ市へ到着です。世界遺産に登録される旧市街地を通り抜け、開けた広場には沢山の巡礼者が深い感慨と喜びに浸っています。彼らの目線の先には、壮大な大聖堂が鎮座しています。
北の道 Camino del Norte
大西洋沿岸に沿って伸びる「北の道」は、全長 820 km、34 区間から構成されます。2015 年にユネスコの世界遺産に登録されました。その特徴は、何と言っても、グリーンスペインの名で知られる北スペイン 4 州を存分に堪能できることです。スペインの他の地域に比べ降水量が多い北スペインでは、牧草地や平原、山地の美しさが際立っています。大海原を眺めながら歩けるだけでなく、カンタブリア山脈のような山の風景も鑑賞することができるのです。サン・セバスチャンやサン・ビセンテ・デ・ラ・バルケラ、ヒホンなどの美しい港町に立ち寄りながら、新鮮な海の幸を満喫するのも良いでしょう。文化遺産も見逃すことができません。多くのキリスト教君主たちやアッシジの聖フランチェスコが歩いた道としても知られています。メリットは、巡礼者数が他の道に比べると少ないため、落ち着いて歩くことができることと、海と山の自然を楽しめることです。デメリットは、フランス人の道やポルトガルの道に比べると日本語の情報があまりないため、情報収集のハードルが少しだけ高いことと、晴天率が低いことです。
バスク州
バスクでは、食と建築を楽しみましょう。フランスとの国境沿いの町イルンを出発し、目指すは高級リゾート地サン・セバスチャンです。美食の楽園として知られ、バルでつまむピンチョスから高級レストランでの食事まで、様々な方法で地元の食材を味わうことができます。微発泡白ワイン、チャコリの名産地としてしられるサラウツやゲタリア、ピカソの絵のモチーフとして有名なゲルニカを通り、バスク州最大都市ビルバオへ。グッゲンハイム近代美術館や近代的建築を鑑賞したら、世界遺産ビスカヤ橋へと歩を進めます。世界で最も歴史のある運搬橋を渡り、カンタブリア州へと進んでいきます。
カンタブリア州
カンタブリア州には美しい港町が沢山あります。中世の要塞が残るカストロ・ウルデイアレス、スペインで最も有名なアンチョビの産地サントーニャ、王侯貴族が避暑に訪れた州都サンタンデール、レバニエゴ巡礼路の出発地点としても知られるのどかな港町サンビセンテ・デ・ラ・バルケーラ、初期のガウディ建築を訪ねることができるコミージャスなど、個性豊かな海岸の町が次々と登場します。一部内陸部を歩く行程では、スペインで最も美しい村と称されるサンティジャーナ・デル・マルや、その近くに位置するアルタミラ洞窟博物館を訪問することができます。
アストゥリアス州
アストゥリアスでは、歴史に耳を澄ましましょう。イベリア半島でいち早くキリスト教王国が誕生した地域には、古くから語り継がれる伝説や歴史的建造物、お宝が眠っています。州最大都市のヒホンからは、道が二手に分かれます。海岸線をガリシアへと引き続き歩く「北の道」と、州都オビエドを通り内陸部からガリシアを目指す「プリミティボの道」です。
「プリミティボの道」は、聖ヤコブの墓が発見されたことをききつけたアストゥリアス王国の王様アルフォンソ 2 世が、9 世紀に歩いた道といわれています。山がちなアストゥリアスの内陸部を進むため、他の巡礼路に比べると難易度が高いことが特徴ですが、その分、静かな道と豊かな山の風景を楽しむことができます。ガリシア州へ入ると、ローマ時代の遺跡が眠るルーゴを通り、メリデにて「フランス人の道」に合流します。
ガリシア州
ヒホンから続く「北の道」は州境の町リバデオを通り、いよいよガリシア州へと突入します。アメリカ大陸に渡り、財を成した人びとが建てたコロニアル風のカラフルな家が並ぶリバデオの町並みを散策しましょう。近くには、「プラージャ・デ・ラス・カテドラレス (大聖堂の砂浜) 」と呼ばれる景勝地があります。波と風化によりアーチ状にくり抜かれた岩壁はまさに天然の彫刻です。そこから、ガリシア州内陸部のビアルバやバアモンデなどの美しい小村を通り、チーズが有名なアルスアで「フランス人の道」と合流します。
楽しみ方2〈 訪ねる 〉
フランスから北スペインを抜け、聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラへと伸びる巡礼路は、スペイン内だけでも約 800km の長さがあります。一度に歩き切るには 1 か月から 3 か月ほどかかり、巡礼証明書が発行されるラスト 100 kmの場合でも、5 日ほどかかるため、最低でも 1 週間ほどのまとまった時間が必要になります。日本から訪ねて、巡礼にチャレンジすることは容易ではありません。巡礼路を歩くほどの時間は取れないけれど、巡礼の雰囲気を味わいたいという方に、おすすめのスポットをご紹介します。
北スペイン各地の大聖堂
ハカの大聖堂
巡礼路|フランス人の道・アラゴンの道
11 世紀に建築が始まったロマネスク様式の大聖堂は、聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラの大聖堂と並んでスペインで最も古い大聖堂のひとつです。頑丈な石造りの内部には三つの後陣が構え、ゴヤの義兄の天井画やロマネスク様式の鉄格子が目を引きます。土地の聖人を祀る礼拝堂や聖遺物箱、スペインを代表するロマネスク芸術コレクションを誇る美術館など、小規模ながらもじっくりと見て回ることができる大聖堂です。
ブルゴスの大聖堂
巡礼路|フランス人の道
カスティーリャ・イ・レオン州のブルゴス市には、中世の趣を残す美しい旧市街があります。ひと際目を引くのが大聖堂です。空へ向かって真っすぐに伸びるいくつもの塔がトレードマークです。巡礼路の宿場町として繁栄したブルゴスの歴史が大聖堂には詰まっています。元々は 11 世紀に建設された小さなロマネスク様式の教会でしたが、構内に入りきらないほど巡礼者が増えてしまったため、13 世紀にゴシック様式へと改築されました。パリのノートルダム大聖堂をお手本に設計された大聖堂は、美しい装飾と気品ある佇まいで巡礼者を魅了し続けています。スペインでは唯一、建造物単体でユネスコの世界遺産に登録されている歴史的にも、文化的にも重要な大聖堂です。
レオンの大聖堂
巡礼路|フランス人の道
スペイン・ステンドグラスの集大成がレオンの大聖堂にはあります。旧市街地の中央に建つ大聖堂は、要塞のような頑丈な外観とは裏腹に、堂内はすらっと伸びる美しい柱が連立しています。その空間を彩るのは、ステンドグラスを通して入り込む、色とりどりの光です。13~20 世紀にかけて作られたステンドグラスの数は 737 点に及びます。ブルゴス大聖堂と並び、スペイン三大大聖堂として名を馳せる大聖堂は、同じく旧市街に位置するロマネスク建築の傑作、サン・イシドロ大聖堂とあわせて鑑賞することで、レオンの繁栄を感じることができるとともに、美術史の変遷を目の当たりにすることができるでしょう。
オビエドの大聖堂
巡礼路|北の道・プリミティボの道
国土回復運動発祥の地の一つであり、イベリア半島の中でいち早くキリスト教王国が誕生した都がオビエドです。旧市街の一画には、13 ~ 16 世紀にかけて建造されたゴシック様式の大聖堂が建っています。ゴシック様式の建物が建てられる以前には、9 世紀につくられたプレロマネスク様式の教会が建っていました。その一部である「カマラ・サンタ」と呼ばれる宝物庫には、大聖堂で最も重要な聖遺物である「勝利の十字架」と「天使の十字架」が保管されています。アストゥリアス州の紋章とオビエド市の紋章に描かれる、金色に輝く十字架を鑑賞しながら、この地の歴史に思いをはせるのも良いでしょう。
ルーゴの大聖堂
巡礼路|北の道・プリミティボの道
ルーゴは、ローマ時代に起源を持つガリシア州内陸部の町です。旧市街地をぐるりと囲む、頑丈な佇まいのローマ城壁は、2000 年にユネスコの世界遺産に登録されています。城壁の中へ足を踏み入れると、同じくローマ時代に起源を持つ大聖堂が巡礼者を出迎えます。12 ~ 13 世紀にかけて建造されたロマネスク様式の建築物はその後、増改築を繰り返し、現在の姿になりました。内部では、半円アーチや市松文様の装飾などロマネスクの足跡を辿ることができます。豪華な装飾と天井画で彩られた主祭壇には、ガリシアの紋章のモチーフとなった聖体が保管されています。
サンティアゴ・デ・コンポステーラの大聖堂
巡礼路|聖地
サンティアゴ大聖堂は 11 世紀にロマネスク様式の教会として建築がスタートした後、12 世紀に名匠マノロの手により完成し、13 世紀に聖別された巨大建築です。その後、原型を留めながらも、幾度とない増築が行われる過程で、様々な美術様式が混在する現在の姿へと変わっていきました。ルネサンス様式の回廊、豪華なバロック様式で飾られた主祭壇やオルガン、ファザード。これらの美術様式を辿るだけでも、この大聖堂の長い歴史を感じることができます。
主祭壇に設置された聖ヤコブの像は、後ろから抱き着くことでご利益があると信じられているため、現在でも多くの巡礼者や信仰者が列をなして順番待ちをします。地下礼拝堂には、巡礼が生まれる元となった聖ヤコブの遺骸が納められた銀製の聖遺物箱が保管されています。
主祭壇で行われる巡礼者のためのミサの影の主役は、20m のロープにぶら下げられたボタフメイロと呼ばれる巨大香炉 (重さ 53kg、高さ 1.5m) です。8 名の修道士により絶妙な力加減で引っ張られる銀製香炉は、最高時速 68 km で翼廊高く引っ張り上げられ、巡礼者を盛大に祝福します。
その他にも、修復が終わったばかりの栄光の門や、聖ヤコブゆかりの聖母ピラールの礼拝堂、大聖堂の四方を囲む個性豊かな広場、年代別の宗教美術品を間近で鑑賞できる併設美術館など、見どころ満載の大聖堂です。
聖地サンティアゴから足を延ばして
聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラ
ガリシアの州都では、歴史と文化を至る所で感じることができます。ガリシアを象徴する花崗岩でつくられた石畳やポーチが、ユネスコ世界遺産に登録される旧市街地を飾ります。道や広場の名前にも中世からの歴史が見て取れ、道に迷いながらの散策を楽しむことができます。中心部には大聖堂が堂々とした佇まいで建っています。連日、多くの巡礼者が到着の喜びを分かち合うオブラドイロ広場には、大聖堂の他にも、昔は救護院として使われていた 5 つ星のパラドール (国営ホテル) や市庁舎、大学など、町の歴史を象徴する建物が集まっています。レストランやブティック、食料品店、伝統工芸品店、市場など、日常生活と歴史が同居する空間を楽しみましょう。
パドロン
エリア|サンティアゴ・デ・コンポステーラから約 25 km
ヤコブの遺体を乗せた船が流れ着いた地がパドロン村であると言われています。町を流れる川のほとりにサンティアゴ教会が建っています。10 世紀に建てられた小さな教会は、19 世紀に新古典主義の教会へと改築されています。真新しい外観の正門をくぐり抜けると、中世の空間へあっという間にタイムスリップします。ロマネスク様式の面影を残す 3 つの後陣の中心には、聖ヤコブが祀られている主祭壇があります。その中心には「ペドロン」と呼ばれる大きな石が保管されています。エルサレムで殉教した聖ヤコブの遺体を乗せた石の船は地中海をさまよい、この石に引っかかったと伝えられています。サンティアゴ巡礼発祥の所以となったこの石を一目見ようと、多くの巡礼者がこの教会を訪れます。
フィステラ岬
エリア|サンティアゴから約 80 km
聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラで巡礼を終えた巡礼者が目指す場所があります。ローマ人が「地の果て」と呼んだフィステラ岬です。聖地から西へ 80 km、大西洋の海原が一望できる岬の突端に 0 kmを示す道標がたっています。ここまで歩き尽くした巡礼者は、復路へつく前に、身に付けていた衣類や靴を焼く習慣がありました。船を先導するために 65 km先まで光を届ける灯台が、岩場が多数あり難破しやすいことで有名な「死の海岸」を見つめるように、静かに建っています。
歓喜の丘
エリア|サンティアゴから 5 km
フランス人の道の中で、聖地を一番最初に拝むことができる場所が「歓喜の丘」です。サンティアゴ・デ・コンポステーラ市の近郊に位置する標高 380m の小高い丘からは、街とその中央に建つ大聖堂の鐘楼が見えます。丘の上には、杖を持ちマントを羽織った中世の巡礼者のブロンズ像が二体、やっとの思いでここまで辿り着いた苦労と喜びを分かち合うように建っています。
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